2015年 撮影紀行(その1)



1月16日 大蔵高丸

 大月市のtenki.Jpによる天気予報では夕方からみぞれマークが付いていた。午後、岩殿山のライブカメラを覗くと既に雪が降っている状況が写し出されていた。
  積雪期の大蔵高丸へは日ノ出時間に間に合わないことが過去何度かあった。大雪で沢沿いの登山道は危険と思い林道経由で行ったことや、湯ノ沢お花畑の扉が凍結して開けるのに時間を費やしたことなど遅くなった理由はいくつかあるが、何と言っても積雪30cmを超える雪道は労力を要し体力消耗も激しく大幅に所要時間を増やしている。自分の体力に合った行程を設定する必要があるが、積雪量によって所要時間に大きな違いが生じるため事前に積雪量が分かれば行程を立てやすい。しかし、正確な情報を得ることは難しく、過去の経験を元に余裕を持って決めることが殆どである。
  午前2時10分、焼山沢林道の閉鎖ゲートに到着。積雪は10cm位、思ったよりも少ない感じである。車の外部温度計を見ると0℃と高い値を示している。水蒸気を多く含んでいるせいか、満天の星空に鮮明さがない。風もなく今日は穏やかな天気になりそうである。登山準備を始めると下の方からヘッドランプの灯りが近づいてくる。途中車で追い越した人だと直ぐに分かったが、何故車でなく徒歩なのだろうと疑問に思った。すると先方からどちらに行かれるのですかと声が掛かった。関西なまりの若い人であったが、相手は白谷に登ると云うことだった。この時間に登るのは富士山カメラマン以外に考えられない。沢沿いの登山道を登るのは初めてだと云うことだったので、準備が終わるまで少し待って貰って同行しようと思ったが、お先に行きますと声を掛け去って行った。
  2時40分ゲートを出発する。林道にも10cm程の積雪があり途中でアイゼンを装着するのも面倒なため最初から装着して歩くことにした。1時間程で焼山沢沿の登山道へ入る分岐点に着いた。積雪は20cm程に増えていたが、この位であればほぼ予定時間をクリアー出来ると思われた。登山道には先に行った人のトレースがあり、初めてのコースだと云う割にはしっかりとした道を辿っている。夜道の雪山には慣れている人のようだ。
  登るにつれ積雪は増加し、湯ノ沢峠に着いた時は30cmを超えていた。5時に到着したが予定より15分程遅れていた。湯ノ沢峠から大蔵高丸まで2時間を見込んでいたため、急がなければ日ノ出に間に合わないと思われた。その時、上の方でヘッドランプの灯りが見えた。先に行った人と思われたが、こちらに向かって下りてくるようである。その方向から見ると白谷への登山道を誤ったようである。京都から来たと云っていたが、初めてのコースでトレースもないし、暗い中で慣れているにしても方向を誤る可能性は高い。
  5時10分、湯ノ沢峠を出発。今回の雪は湿気が多く思いの外重い。クマザサや小さな雑木は重みに耐えきれず頭を垂れている。この様な場所を通過するには時間も掛かるし思いの外体力を消耗する。暫くするとお花畑の入口に差し掛かるが案の定、扉の下側が凍結し開かない。ピッケル型のストックを使って氷を砕くが一向に捗らない。暫く続けている内にこれでは夜が明けてしまうと思われた。ここまで来て断念するのも今後のこともあり、何とか中に入らなければと思い扉を乗り越えることを考えた。しかし、人は進入出来ても20kgあるザックを入れるのは容易でない。中身を取り出し個々にと考えたが、これこそ日が暮れてしまう。ネットを切断する訳にもいかず、帰ろうかと諦め掛けた。その時、目に付いたのはネットに止められた30cm角の目立たない看板である。それを読むと凍結して扉が開かない場合は、ネットの張ってあるパネルを外して入って下さいというものであった。このパネルはひもで結ばれていて解けば簡単に中には入れるようになっている。茶色の看板でヘッドランプの灯りでは中々気がつかない。既に30分ロスタイムをしている。この先、扉は未だ3箇所残されている。
 お花畑の積雪は半端でない。膝が隠れる位ある。重い雪は潜った足を抜くときに登山靴の上面に湿雪が乗り容易に足を持ち上げることが出来ない。やはりカンジキを持ってくるべきと悔やまれたが、今更どうにもならない。最後の扉を開けたときは6時10分になっていた。辺りが少しずつ明るみを帯びてきたが、これから山頂まで登りが続く。40cmを超える積雪では山頂まで少なく見積もっても1時間以上掛かると推測された。この時、残念ながらもう日ノ出には間に合わないと悟った。これからの登りは体力勝負であるが、沢沿いの登山道で体力を使い果たし余力はない。10m歩いては呼吸を整えるという超スローペースの歩行となった。小さなピークを越えると暫く下りに入るが、途中笹藪が密集している所がある。笹は雪の重みで頭を垂れ、それにより登山道は蓋がされ何処にあるか不明である。今まで何度か通過している場所なので、登山道の見当は付くはずであるが、それがよく分からない。探すため寝ている笹の下に潜ることは困難なため、雪の積もった笹の上を歩きながら探さざるをえない。足を突っ込むと抜くことがなかなか出来ず、笹藪との戦いが始まった。 暫く奮闘し、やっとの思いで登山道が見付かったが、この時は既に日ノ出時間になっていた。周辺は朝日で紅く染まった雪面や樹氷が素晴らしい情景を見せていた。またも朝日に焼ける富士山の撮影チャンスを逃した思いである。大蔵高丸の西面を登る登山道も積雪は40cm〜50cmに達し、辛い登りが続く。
 山頂到着は7時35分。やっとの思いで山頂を踏んだが時遅しである。太陽の位置も高く、富士山撮影のピークは当に過ぎている。富士山は雲一つないピーカンの中に姿はあるが、やや靄が掛かり鮮明さに欠ける。気温は0℃で高めであるが、西風がやたらと強く、体感温度はかなり低い。疲労感も強く、日の出に間に合わなかったことで撮影意欲が湧き出てこない。
 山頂からは南アルプス連峰が一望でき、雪をたっぷり蓄え素晴らしい眺めが展開されている。時間と共に風も収まり暖かい日差しに温もりを感じながら、暫くその情景に見入り身体を休める。山頂に長居をしたが、10時55分山頂を後にする。体力は大分回復し、下りは足取りが少し軽くなった。湯ノ沢避難小屋で15分程休憩し、早朝に登ってきた沢沿いの登山道を下る。林道の分岐点でアイゼンを外し、未だ雪の残る林道を足早に下る。ゲートには15時10分に到着。ゲートから大蔵高丸山頂まで登り約5時間。下り約4時間。往復9時間歩いた計算になるが、距離は短くとも雪道は無雪時の2倍以上の所要時間と体力消耗があることを感じる。辛い登りが続くとき、自分に言い聞かせている言葉がある。”山に登ることが目的でなく、富士山の写真を撮ることか目的であると”
 今日は京都の若いカメラマンと下山時に湯ノ沢小屋の前で2人組の若い登山者と出会った。


今日の富士山


 山頂到着が遅くなり日ノ出時間帯の朝焼け富士を撮影することを出来なかったが、厳冬下における温かさのある情景を表現した。

9:10頃撮影  





9:40頃撮影








山頂と登山道の状況


 山頂の積雪は40cm位。西には雪を被った南アルプス連峰が一望出来る。また、富士山の画面に入ることはなかったが、素晴らしい霧氷も多く見られる。積雪は標高に比例し増加する傾向で、焼山沢沿いの登山道が20cm〜30cm、湯ノ沢峠が40cm、お花畑付近が最も多く50cm〜60cm、大蔵高丸の西斜面が40cm〜50cm、山頂30cm〜40cm。お花畑は強風に晒されることも多く吹きだまりが出来やすい。シュカブラも所々に見られる。

 今回、気温が比較的高く焼山沢の水は凍結がなく安全に横断できたが、凍結しているといきなり氷が割れてバランスを崩し転倒することがあり、注意が必要である。また、沢の中腹を歩く箇所もあり、積雪が多いと雪もろとも谷に滑落する場合があるのでなるべく山側を歩き、転落しないよう注意を喚起したい。

 お花畑の保護エリアに入る場合の扉であるが、北側の扉は下側が凍結し開かないことが多い。以前は氷を砕いて開けたことがあるが、時間も掛かり労力を要した。今回も覚悟の上だったが、凍結の程度が激しくとてもピッケル型のストックでは刃が立たなかった。幸いにも今年からと思われるが、紐で結ばれたネットのパネルを外すことで容易に進入出来るようになった。恐らく登山者などから苦情が寄せられたと思われる。他の扉は北側扉のような配慮はされていないが、凍結はなく扉下の雪を退かすことにより出入りは可能である。



大蔵高丸山頂からの南アルプス展望                                    9:15頃

  


霧氷咲く(山頂から東側を望む)      9:10頃




以下写真は時間を追って並べてある。



大蔵高丸山頂      10:55頃    


山頂付近の登山道 11:05頃

笹藪の生い茂った箇所         11:20
頃    

お花畑に向かう登山道    11:50




山お花畑西側の扉(扉下の雪を退か
しただけで開いた) 11:20頃  

 

雪に覆われたお花畑         12:00
頃    


シュカブラ(立ち入り防止ロープが埋
まっている)12:15頃  

 

お花畑から望む白谷丸      12:20頃




お花畑から望む大蔵高丸    12:20
頃    


内側の南側扉      12:20頃

凍結している北側の扉        12:40
頃          

扉が凍結して開かない場合の説明書
き     12:45頃  





湯ノ沢峠の分岐点12:50頃    

湯ノ沢避難小屋の内部(綺麗に整頓
されている)  13:10頃

避難小屋近くの沢沿い    登山
道       13:25頃            

気温が高く沢の水は殆ど凍結してい
ない   13:45頃  




谷まで深い所には落下防止柵が設け
られている      13:25頃  


登山道を塞ぐ頭を垂れた樹木14:00

沢沿い登山道入口(これよりゲートま
で林道を下る)    14:30頃  



閉鎖ゲート         15:10頃    






                                           使用カメラ:OLYMPUS E-M1   FINEPIX  F1000EXR




 

1月7日 奈良倉山


 今年最初の富士山撮影地として奈良倉山を選んだ。昨年秋の松姫トンネルの開通により、旧道は現在通行止めで松姫峠に行くことが出来ない。看板には道路工事のためと書かれているが、今後は冬季閉鎖で通行止めとなる可能性が高い。トンネル開通により松姫峠を越える車は皆無といって良いと思われるが、峠まで行く車はレジャー目的か林業関係者のみで、特に冬季は僅かな登山者の車だけと思われる。積雪時に一部の車のため除雪車を出すとは考えられない。今まで積雪のある奈良倉山へは松姫峠から容易に行くことが出来たが、今後はそれほど簡単ではなくなる。
 そこで今回は積雪の未だ少ない時に、鶴峠からのコースを登り登山道の状況を確認することにした。登山口や車を止めるスペースは事前に下見をして位置関係は把握してあったが、このコースを登るのは始めてである。特に夜間は危険を伴うため昼間に登っておくべきと思ったが、地図で調べても難しい山でないため、ぶっつけ本番で日ノ出時間に間に合うよう予定を立てた。
 午前3時50分、鶴峠の登山口に到着。駐車スペースは登山口より北に50m程下った県道沿いにある。電波塔の敷地と思われるが、車が支障するようなことはない空き地となっている。西の空には満月を2日過ぎた立待月が煌々と輝いて辺りを明るく照らしている。風もなく気温は割と高い感じで寒さはない。登山口を4時20分に出発する。山頂まで2時間を見込んだ出発時間であるが、道に迷った時のことを考え余裕は充分取ってある。登山道は良く整備され案内標なども充実しているため、夜道でも迷うことはなさそうである。傾斜も緩やかで岩場や転石もなく歩き易い。途中、地図にはない林道と2度ほど交差するが、間違えて林道に入り込まないようロープが張ってある。この辺一帯は林道があちこちに張り巡らされているようで、林業が盛であることが窺える。
  5時35分、山頂と松姫峠への分岐点に到達する。この直近は登り傾斜がきつく一息つくことが出来る。ここからは何度も歩いている道で状況は良く分かっている。山頂までは傾斜も緩やかで間もなく到着する。登山口を出発する時点で、周辺に白いものは全く見られず、アイゼンを持参するかどうか迷ったが安全のためザックに入れることにした。ところが山頂付近まで来ても雪は登山道や斜面にも全く見られず、やや肩すかしを食った気がした。以前降った雪は既に融けているようである。
 山頂到着5時50分。所要時間1時間30分。迷わず順調に到着した。日ノ出までは暫く時間がありゆっくり撮影準備を始める。天気予報では晴のマークが付いていたが現時点では雲の多い天気である。東の空も赤みを帯びているが黒い雲が棚引いて光を遮りそうである。富士山は暗い中にも堂々とした姿で確認出来るがやや精彩に欠ける表情をしている。光が当たればまた違った表情に変化すると思われる。
 今日は風もなく暖かい朝を迎えたようである。6時30分の気温は−5℃で比較的高く水筒の水も凍ってはいない。−10℃以下になると蓋を開けるのに難儀するが、今日はそのようなことはない。東京の日ノ出時間は6時51分、1年中で最も遅い時間である。山頂ではもう少し早い時間に日の出を迎えるが、光を受けた富士山がどのような表情を見せてくれるか楽しみである。
 6時40分、山頂付近の棚引く雲に光が入り朝焼けが始まった。この色付きも10分程でピークに達し、その10分後には色を失った。この間、富士山になかなか光が入らず間際に一時であるが、やっと色付きを見せてくれた。今日は素晴らしい朝焼けに出会う事ができ満足した。早い時間に感動に浸ったため、その後の撮影に集中力を持続できず、7時半には撮影を打ち切った。片付けを終わると同時に8時10分、山頂を後にした。
 奈良倉山の北東に位置する尾根に設けられた鶴峠からのコースは、下山時には東南からの日差しを受け明るく心地よいコースである。
 登山口に戻ったのは9時10分、所要時間は1時間であった。初めてのコースで不安もあったが登山道が良く整備され、案内表示もしっかりしていることなど暗い中での不安は歩き始めて直ぐに解消された。
 
今日の富士山


日の出時間帯に富士山上空の雲が焼け素晴らしい情景に出会えた。


日の出時間帯              6:50頃





富士山上空に棚引いた雲 7:20頃

 
 
 
 
 
 
 

 



山頂と登山道の様子

 鶴峠から始めて登ったコースは登山道が良く整備され歩き易い。案内標も多く設置され道に迷うことはない。途中岩場もなく傾斜も全般的に緩やかでハイキングコースといっても良い。このコースは小菅村の主催するトレイルランコースにもなっているため、登山道の管理が行き届いていると思われる。
 山頂直近の富士山ビューポイントは邪魔な木は全て伐採され、素晴らしい富士山が展望出来る。今回の富士山は全てこの場所から撮影した。

山頂の様子        8:05頃      
山頂に続く登山道    8:10頃
凍結している登山道    (山頂近
く)       8:15頃  

山頂と松姫峠への分岐点   8:20頃




明るい登山道         8:25頃
   交差する林道      8:50頃
登山道入口の案内標 9:10頃

登山口近くの駐車スペース   (通
信施設の前)  9:10頃

















                                                             

                                                  使用カメラ:OLYMPUS E-M1   FINEPIX  F1000EXR